nibsang’s blog

韓国ドラマを中心に、コチコチ語ります

やっぱり謎。『秘密の扉』

英祖(ヨンジョ・朝鮮王朝第21代王)

6月の第3日曜日は「父の日」だった。6月中に“父”に関することを何か書こうと思ったのにいつの間にか7月💦 

というわけで、韓国の歴史上、何とも息子に対して残酷な仕打ちをした父親がいたなと英祖が何気に思い浮かんでいた。英祖は、最近だと日曜日のNHK総合テレビで23:00~放送の『ヘチ 王座への道』でチョン・イルが演じる役柄といえばわかりやすいかな? 個人的にはチョン・イルはいい俳優さんだと思うが、正直このドラマのテンポと内容が私には合わない。できれば以前NHKで放送された『イ・サン』(主演:イ・ソジン)のイ・スンジェが演じた英祖をイメージしてもらいたい。今回紹介するドラマ『秘密の扉』では映画俳優として有名なハン・ソッキュが英祖役を演じている。

話を戻して、英祖がなぜ残酷な父親かというと、息子の思悼世子(サドセジャ)を米びつに閉じ込めて生き殺しにしたという史実からだ。この事件の真相は思悼世子の息子であり第22代王・正祖(チョンジョ)によって記録が消されているため明らかになってはいない。

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米びつへ向かう前、息子・正祖を振り返る思悼世子

待望の王子が誕生するが……

正確な記録は消されたものの、思悼世子は父・英祖が最初に授かった息子を亡くした7年後に42歳で授かった待望の息子。英祖はその息子を朝鮮王朝史上最年少の2歳で世子(セジャ/王の跡継ぎ)に冊封し、体格もよく非常に聡明なため溺愛したという。教書を王である英祖が自ら書いたというほどだ。

しかし、英祖は多大なる期待をするばかりに世子にとても厳しく接する。そして世子が文よりも武や芸術を好むなど期待にそぐわないと激怒し失望する。世子はそんな父親を次第に恐れ、萎縮し、精神的に安定しない日々が続いたようだ。世子にとって英祖は“父親”ではなく、恐怖の“王”でしかなかった。どんどん彷徨し、内侍や女官を殺めるなど狂気の沙汰をふるったという記録もある。

 

ドラマ『秘密の扉』での思悼世子

では、『秘密の扉』(放送:2014)はそんな思悼世子のどんな面を扱ったドラマなのだろうか? 企画意図を見てみると、文武両道で国民を深く愛する人物の面を描写したようだ。

“残されている書物では思悼世子はどのように描写されているのか? 世子嬪(セジャビン/夫人)・恵慶宮(ヘギョングン)洪(ホン)氏が執筆した『恨中錄(ハンジュンノク)』には醜悪な病を患った狂人として描写されている。一方で、『英祖実録』には「15歳で代理聴政をはじめ28歳に至るまで政を無理なく行うだけでなく、百姓のために善良な政策を企画して施行した素晴らしい王材」として、息子・正祖が著した『御製莊獻大王誌文』には「孝宗(ヒョジョン/朝鮮王朝第17代王)の意を継いで北伐の夢を抱き、これを実現するために自ら兵法書を書くほど武才が優れていただけでなく、民を愛する心も深く、聖君の資質を十分に兼ね備えていた」と記録されている。ドラマは後者の記録に重きを置く。だとしたら狂人として米びつに閉じ込められて命を落としたのは何故なのか? その答えを見つける過程を事件の捜査過程を通じて描く”

(SBS『秘密の扉』HPより)

あらすじは長くなるのでこちら(BS FUJI公式HP)で

→ https://www.bsfuji.tv/secretdoor/about.html 

 

で、これだけ見ても何だか難しいので超簡単にまとめると、このドラマでは思悼世子が当時の2大党派の権力争いに巻き込まれ、不本意に犠牲にならざるを得なかった人物であることをある事件を発端に描いている。そして最後は父・英祖に国の将来のために自害を命じられ、自ら米びつに入っていく。

 

愛し方を知らなかった父親

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遠くを見つめる英祖

結局英祖はどんな父親だったのだろう? 劇中の英祖も重ね合わせて考えてみるに、“王”としては健全で誠実、漢文にも明るく百姓の苦痛、気持ちを理解しようとする愛国君主だった。しかし、“父親”としては誰よりも期待し愛していた世子を、愛してはいたが、愛し方を知らなかった父親ではなかったか。

謎だ……とちょっと思いつくところで情報を集めてみるに、山口県立図書館に思悼世子が義父に宛てた書簡が残されている。そこには、思悼世子が心の病を患っているが、その治療のために薬を製薬してくれるようにお願いしている記述がある(義父・洪鳳漢(ホン・ボンハン)は文臣だったが平素から製薬にも関心が高かったようだ)。そして英祖には内緒でと書き添えている。どれだけ英祖を恐れていたのかが伺える。また、彼は王位継承のために漢江以南の地図や馬、飼料などに関する書物も送ってくれるようお願いをしている。このことから王位継承のために努力をしていたと思われる。本当に気がおかしくなっていたのだろうか?

15歳から代理聴政をするようになってからうまく意思疎通ができていなかったと見受けられる英祖と思悼世子。もっと広い心で英祖が息子を信じていれば、こんな残酷な結末は迎えなかったのではないだろうか。

現在、コロナで自粛生活が続くなか、実際に人と会って心の交流をする機会が減ったため相手のことを理解する能力が欠けてきてないかなぁ。ふと思いを重ねてしまう。

 

英祖は父親として、思悼世子の墓誌に次のように記している。

“私が13日のことを好んでやっただろうか? お前はどんな気持ちで70歳の父にこのような仕打ちをするのだ”

*1762年・英祖38年閏5月13日、世子廃位。思悼世子は米びつの中で8日目に息絶えている

 

最後は名優のステキなオフショットで

重苦しく、切ない……。

でもドラマはハン・ソッキュの名演技とイ・ジェフンの優しい表情にゆっくりとした時代劇に合った口調、さらにはやたらと見映えする韓服を見て楽しんだ。いつ米びつに入れられちゃうんだろう……と、ビクリとはしながらね。中だるみも(かなり)あったけど💦

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上:この表情のように穏やかであってほしかった / 下:この笑顔。ヤバすぎ

ちなみに、ドラマ『秘密の扉』は全24話なので時代劇が苦手な方は映画「王の運命-歴史を変えた八日間-」を1本で観るのをおススメする。思悼世子をユ・アインが演じ、英祖をソン・ガンホが演じている。さすがこの2人。迫力ありすぎ!

写真:SBS『秘密の扉』公式HP https://programs.sbs.co.kr/drama/secretdoor/main

参考:KBS韓国史伝-『父の涙、英祖』、パク・シベクの朝鮮王朝実録『思悼世子の悲劇』

 

그럼, 뵐께요(クロム ト ベルケヨ / では、またおいしましょう) ^^  nib